【重加算税取消しの裁決から学ぶ】
~節税と帳簿管理、そして税理士の役割~
こんにちは。税理士の吉田茂彦です。今回は、建設業の法人に対して課された**重加算税が取り消された最新裁決事例(令和5年12月4日)**をご紹介します。
税務調査の現場では「重加算税」が話題になることも少なくありません。重加算税とは、納税者が故意に所得を隠したり仮装したと認定された場合に課される非常に重いペナルティです。本件では、帳簿に記載されていなかった現金売上が「隠蔽又は仮装」に当たるかが争点となりました。
■ 事案の概要
請求人は建設業を営む法人で、売上計上漏れがあったとして、税務署から法人税・消費税に関する重加算税の賦課処分を受けました。
きっかけは税務調査。取引先からの現金受領分が帳簿に未記載であり、記帳代行を行っていた商工会にも報告していませんでした。また、現金の使途も不明で、「個人的に費消した可能性がある」との趣旨の申立書まで提出していたことから、税務署はこれを「隠蔽・仮装」と断定し、重加算税を課したのです。
■ 納税者の主張と裁決のポイント
これに対し、請求人は「悪意や故意はなく、単なる事務処理上のミスであった」と反論。
そして審判所は、以下のような判断を下しました。
- 売上漏れがあったことは事実だが、領収証の発行を失念し、その後の記帳に至らなかったことに過ぎない。
- 他の売上については正しく記帳されており、本件だけが偶発的に記録漏れとなっていた。
- 「個人的に費消したかもしれない」という表現は、使途が曖昧なことに対する事後的な説明であって、故意に費消した証拠にはならない。
- 売上漏れの金額は年間売上の0.2%以下で、仮装・隠蔽の意図を示す証拠はない。
このように、「記帳漏れ=直ちに重加算税」とはならないという、実務上極めて重要な示唆を含んだ裁決となりました。
■ 節税と税務対応のカギは「記録の一貫性」
税務調査においては、実際の処理内容よりも「帳簿の一貫性」や「証憑の有無」が強く問われます。本件でも、申告漏れ自体は修正申告で是正されていますが、重加算税というペナルティを課されるか否かは、故意性の有無に左右されました。
節税対策を講じる際や、現金取引の多い業種においては、記帳・証憑保存の徹底こそが最大の防御策になります。そして、正しい処理がなされていても、それを説明できる体制を整えておくことが、調査対応上は極めて重要です。
■ 税理士の役割:適切な処理と事前防止
このようなトラブルを未然に防ぐためには、日頃から税理士が関与し、帳簿や証憑の整理状況を確認することが不可欠です。事務処理の小さなミスが、結果として重加算税や信用失墜を招くことは、決して珍しいことではありません。
当事務所では、節税だけでなく、税務調査に耐えられる記帳体制の構築、現金管理の見直し、修正申告時の戦略的対応などを通じて、経営者の皆様をサポートしています。
おわりに
重加算税という重い処分が取り消された今回の裁決は、「記録の重要性」と「主観的判断の危険性」を教えてくれる事例です。
節税も大切ですが、リスクと向き合いながら、正しい体制と意思決定を行うためには、税理士の継続的な関与が不可欠です。税務調査や売上除外の不安をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。