【節税の落とし穴】土地・建物を一括取得した場合の取得価額の区分方法と裁決事例から学ぶポイント

はじめに

不動産投資や事業用資産の取得を行う法人にとって、土地と建物を一括して取得した場合の「取得価額の区分方法」は、法人税・消費税の両面で極めて重要な論点です。今回ご紹介するのは、令和5年6月21日に出された国税不服審判所の裁決です。この裁決では、取得価額を安易に「路線価差引法」で算出したことにより、想定外の課税を受けた事案が審理されました。

節税を意図したとしても、その手法に合理性がなければ認められない——そんな厳しい現実を示す典型的な事例です。


裁決の概要

請求人(納税者法人)は、簡易宿所として使用するために複数の土地・建物を一括で取得しました。売買契約では土地・建物の価格が明示されていなかったため、建物の取得価額を次のように算定しました。

土地:路線価×地積
建物:総額から上記土地価額を差し引いた残額

この「差引法」を用いることで、建物部分の価額が高く計上され、減価償却費や消費税の控除額が大きくなる、つまり「節税」につながる結果となっていました。

しかし、税務署(原処分庁)はこれに異議を唱え、土地・建物の取得価額は「固定資産税評価額比」で按分すべきだと主張し、更正処分を行いました。


審判所の判断

審判所は、次のように判断しました:

  • 単純な差引法では、土地の価額が過小に、建物の価額が過大になり、「看過し難い不均衡」が生じる。
  • 一般的には「固定資産税評価額比」による按分が合理的といえる。
  • ただし、建物に大規模な改修工事が実施され、その価値が評価額に反映されていない場合は、「不動産鑑定評価に基づく積算価格比」による按分の方が合理的である。

結果として、改修工事が施された建物には積算価格比、それ以外には固定資産税評価額比が適用され、一部の課税処分が取り消されました。


節税の観点からの教訓

この裁決から得られる重要な教訓は、**「節税目的であっても、合理的根拠がなければ否認される」**ということです。とくに以下の点は、実務上極めて重要です。

✅ ポイント1:取得価額の算定には一貫性と合理性が必要

帳簿上で建物の価額を高く見積もることは節税に繋がる場合がありますが、税務調査では「客観的に説明可能か」が問われます。

✅ ポイント2:不動産鑑定評価の活用も節税戦略の一環

建物に改修が加えられている場合など、固定資産税評価額が実態にそぐわないことがあります。このような場合は、積算価格評価を用いることで、より適正な価額按分が可能となります。

✅ ポイント3:差引法はリスクが高い

「土地の価額を路線価で算定し、建物を差額とする」差引法は一見合理的に思えるかもしれませんが、実務では否認リスクが非常に高い手法です。


まとめ:節税には「戦略」と「根拠」が必要です

今回の事例は、不動産の取得において取得価額の区分方法を誤ると、後に多額の追徴課税を受けるリスクがあることを示しています。節税は可能ですが、それにはしっかりとした「ロジックと証拠」が必要です。

不動産取得を伴う節税戦略について不安や疑問がある場合は、専門家の助言を得ることが不可欠です。私たちは、節税の意図を正しく実現するための「防衛的スキーム構築」を得意としております。ぜひお気軽にご相談ください。


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