【判例解説】従業員による横領と法人税の損金算入 ― 大阪高裁平成13年判決の意義とは?

この記事でわかること

  • 青色申告法人に対する更正処分の理由差替えの可否
  • 従業員による横領損失は損金算入できるか
  • 重加算税は「従業員の行為」でも課されるのか
  • 税務調査での帳簿管理体制の重要性

判決の背景

名古屋市でパチンコ店等を経営していた青色申告法人が、売上除外や架空仕入れを理由に法人税・消費税等の更正処分と重加算税賦課を受けた事案です。

経理職員(乙)が数年間にわたり横領を行っていたことが発覚し、それに伴う損失の取扱いや、処分理由の差替えの適法性、さらには重加算税の是非が争点となりました。


判決の要点

1. 更正処分の「理由差替え」は許されるのか?

課税庁は当初、特定店舗の売上除外を理由に更正処分を行いましたが、訴訟中に「別の売上除外」(D取り分)に理由を差し替えました。控訴人は「青色申告法人に対する更正は理由変更ができない」と主張しましたが、大阪高裁は以下のとおり判断。

「処分理由の差替えは、被処分者に格別の不利益がない限り、訴訟上許容される」

この判断は、白色申告者との均衡を保つ実務運用に一石を投じるもので、青色申告者にも一定の柔軟な対応がとられ得ることを示しました。


2. 横領による損失は損金算入できるのか?

控訴人は「従業員が横領した金額は損金に算入すべき」と主張。これに対して裁判所は、法人税法22条4項に基づく権利確定主義を根拠に以下のように判断しました。

「横領損失が発生しても、同時に損害賠償請求権が発生するため、所得には変動を来さない」

「債権が明らかに回収不能であると認定できない限り、損金算入は不可」

また、控訴人は通達(法基通2-1-37)による柔軟な取扱いを主張しましたが、裁判所は「乙は帳簿全体を一任されていたため、法人内部の人間として扱われ、通達上の『他の者』には該当しない」として通達の適用も否定しました。


3. 重加算税は「従業員の不正」でも課されるのか?

控訴人は、「横領したのは従業員であり、法人自身は被害者である」と主張。しかし、大阪高裁はこう述べています。

「経理職員の帳簿記載に基づいて申告を行っていた以上、法人が仮装・隠ぺい行為を行ったとみなされ、重加算税の対象となる」

さらに、国税通則法68条の趣旨に立ち返り、「納税制度の適正な運用のためには、法人が従業員の行為により不適切な申告を行った場合でも重加算税の賦課は合理的である」と結論づけました。


実務への示唆

この判決は、以下の点で税務実務において重要な教訓を与えるものです。

  • 帳簿の作成・確認体制を整備し、経理担当者の行為を「法人の行為」と見なされないようにすることが不可欠
  • 横領損失については、「損害賠償債権の回収不能」が明確でなければ損金算入はできない
  • 訴訟段階での処分理由差替えも許容されうるため、反論の基礎は柔軟に構築すべき

まとめ

従業員の不正が法人の税務責任にどこまで波及するのか、また損失の会計処理と税務処理がどう乖離するか――本判決は、その境界線を明確に示した重要判例です。
税務調査においても「形式的な処理」ではなく、「経理体制の実態」が重視されることを再確認させられる事案と言えるでしょう。


キーワード

青色申告 更正処分 理由差替え 損金算入 権利確定主義 重加算税 仮装・隠ぺい 国税通則法68条 法基通2-1-37 従業員横領

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