【判例解説】経理部長の横領と損害賠償請求権の益金算入時期 ― 東京高裁平成20年11月26日判決の実務的意味とは
はじめに
企業内の不正行為が税務上の処理に影響を与える場合、その処理の妥当性が争われることがあります。特に、損害賠償請求権を益金に計上すべき時期については、権利確定主義をどう適用するかが実務上の論点となります。今回取り上げるのは、経理部長による架空外注費を用いた横領事件を巡り、法人税の更正処分および重加算税の適法性が争点となった【東京高裁平成20年11月26日判決】です。
判決の概要
この事案では、同族会社の経理部長が会社の金員を不正に詐取する目的で、複数の架空外注費を計上。これにより複数年度にわたって損金が過大に計上されていました。
税務署は、該当金額は損金に該当せず、逆に詐取された金額について損害賠償請求権が発生したとして、これを益金に算入すべきと判断。更正処分と重加算税の賦課を行いました。
主な争点と裁判所の判断
1. 損害賠償請求権の益金計上時期
裁判所は、法人税法22条に基づく「権利確定主義」により、損害賠償請求権は損害発生時に既に確定していると判断。
加害者が明らかであり、社内のチェック体制によって不正を容易に発見可能であったことから、損害と同じ年度に益金計上すべきとしました。
2. 損害賠償請求権の回収不能性と貸倒処理
A社は「加害者は債務超過状態であり、損害賠償の実現可能性は乏しい」と主張しましたが、裁判所は加害者が資産・預金・給与を有していたことを重視し、「回収不能」と評価するには至らないと判断。よって、貸倒損失としての処理も否認されました。
3. 重加算税の適用可否
加害行為が経理部長個人のものであったとしても、会社の内部統制の不備によりこれを容易に防げたことから、**「法人の行為と同視できる」**とされ、重加算税の賦課も適法と認定されました。
実務への示唆
本判決は、損害賠償請求権の処理において「損金計上と益金計上は原則同年度」とし、例外はあくまで客観的に権利行使が困難な場合に限られることを明確にしました。
また、たとえ不正が役員や従業員個人によるものであっても、法人としての内部統制が不十分であれば、法人税上の責任を免れない点は、すべての事業者にとって重要な教訓となるでしょう。
まとめ
- 不法行為による損害賠償請求権は、損失発生と同年度の益金に計上が原則
- 資力の乏しさは貸倒損失として別途判断される
- 内部統制不備は法人責任として重加算税の対象となりうる
この記事でわかること:
✅ 架空経費が損金とされない理由
✅ 損害賠償請求権の益金算入時期の基準
✅ 横領などの不正が発覚した場合の法人の税務責任
✅ 重加算税が法人に適用される具体的な要件